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ヴィクトルのそばにいたい
* ユーリ!!!on ICEの二次創作小説です
* 見る人によってはBL(ヴィク勇)ですがそういうシーンは書いてナイデス


 去年のGPF後とは比べ物にならない量のメールやメッセージ、着信が届いた。家族からも、優ちゃんからも、地元の同級生や昔の知り合い、お世話になった方々。日本からのメッセージを受けとる度に、時差があるのにリアルタイムで応援しててくれたんだと思うと、感謝の気持ちよりも申し訳ない気持ちが上回る。それでも沢山届いた「おめでとう」の言葉にただただ「ありがとうございます」と応え続けた。

 だけど僕は追い求めた場所には到達出来なかった。金メダルを獲得したのはユーリ・プリセツキー。でも、何故かユリオはどこか満足している様に見えなかったし、6位だったピチット君は全力を出しきってとれた順位だからと、僕にそう笑顔で話してくれた。そして「いつか絶対、勇利と一緒に表彰台にあがるからね」とも言っていた。

 選手である以上、みんな誰もが1位を目指す。全力でそれを表現する。誰が誰より下とか上とかではなく、自分の実力が完璧に発揮できるかどうかだ。僕の今の力では、SPはジャンプのミスがあった。FSは今の全てを出しきったと、そう思う。

 僕がずっと憧れ続けてきたヴィクトル・ニキフォロフのFSのスコアを抜いた事も大々的に報道されたし、試合後のインタビューで散々質問を投げ掛けられた。ヴィクトルと同じ舞台にやっと立つことが出来たんだと思うと、自然と涙が込み上げる。

 終わりにしようと思った。終わりたくないとも思った。引退が頭を過ったのは決して幕を引こうと思ったからではなく、燃え尽きようという気持ちがそうさせたんじゃないかと考えている。大袈裟に言えば「此処で全てが終わっても構わない」という、そんな気持ちだった。

 此処まで来れた事が本当に奇跡だったんだ。だからヴィクトルをロシアに返して、再びロシアの選手として世界を魅了して欲しいと思った。僕なんかのコーチでいたらダメなんだ。それ以上のワガママは許されないし、何よりも僕が望んでいない。

 ヴィクトルのスケートが見たい。氷の上で輝き続ける貴方を、もう一度見たい。例えそれで、もう2度と同じ舞台に立つ事が出来なくなったとしても、輝き続けるスケートの神様を、心の底から求めている。


「こんな所にいたのかい、勇利」

 背後から僕を呼ぶ声。一年前にはこうして会話をする事なんて考えられなかった人が、僕を探して見つけ出した。ヴィクトル・ニキフォロフ。メディアが生み出した彼の異名は様々あるが、僕にとっては「スケートの神様」であり、それがいつしか「僕の神様」へ変わっていった。

 バルセロナのブランドショップで新調したスーツをモデルの様に着こなしている彼は、軽やかな足取りで僕の元へと近づくと、いつも通りその腕を伸ばして僕の肩を抱き寄せる。

 最初は本当に慣れなかった。海外生活が長い僕でも、外国人のスキンシップは今でも突然くると心臓に悪い。それなのに、相手がヴィクトルとなればもう、畏れ多くって…。

「うん。ちょっと酔いさましにね」

「酔い…?勇利、今日はまだ飲んでなかっただろう?」

「あー、うん。アルコールの事じゃなくて、なんていうか」

 去年のバンケットではコーチ以外の人とろくに会話をしなかった。それが今年のバンケットでは一転する。「おめでとう」と声をかけられ、ハグやらキスやら写真の嵐。僕が去年遠目で見ていた世界に突然放り出された。

 きらびやかな空間に慣れていなくて、怖くなって逃げ出した。飲んでもいないのに、酔いを理由に。

「だ、だめだよね。うん、戻るよ」

 出てくる言葉は言い訳であると自覚している。僕はヴィクトルの弟子なんだから、こんな所にいてはダメなんだ。折角ヴィクトルが誕生日プレゼントにって買ってくれた、同じブランドのスーツも着させて貰っているんだ。

 僕がこんなんじゃ、ヴィクトルの顔に泥を塗ってしまう。

「いいよ。勇利の気の済むまで此処にいよう」

「え…?でも」

「俺も、ゆっくり話がしたかったしね」

 風が無いとはいえ、夜のバルセロナは肌寒い。ヴィクトルは少しお酒を飲んでいるのだろうか、僕をくるむように抱き締めるとその体温がいつもより暖かい事に気がついた。

 僕を連れ戻しに来た筈なのに、バンケットに戻らなくて良いのだろうか。そんな心配を他所にヴィクトルは優しげな瞳で僕の様子を伺ってくる。

 もう少しだけ此処に居たいという意思を告げたいけれど言葉が喉につまってしまう。

「寒くないかい?」

「大丈夫」

 バルコニーから見渡す景色はとても美しくて、名前も知らない星座が散らばっていた。遠くから聞こえる鐘の音に耳を澄ませると、ヴィクトルの鼓動が伝わって来る。同時に、僕の緊張もヴィクトルに知られているのかと思うと余計冷静ではいられなくなりそうで、大急ぎで会話の緒を探したけれど、何も見つからずただただ俯くばかりだった。

「勇利は明日、何処に行きたい?」

「明日?明日はもう日本に帰らないと」

「飛行機の時間を遅らせようよ。折角のバルセロナだよ、もうちょっと観光しよう」

 GPF前に目一杯観光を楽しんだ。ヴィクトルと買い物して、美味しいものを食べた。最後の思い出のつもりで、ヴィクトルの隣を歩いていた。

「あぁ、それとも部屋でゆっくり休息を取ろうか。勇利はスタミナあるけど、緊張で疲れただろう?二人で昼まで一緒に寝ていようか」

 勇利はどうしたい?と、そう問いかけてくる。まるで僕の希望を全て叶えようとしてくれているみたいに…。

「ヴィクトル」

「ん?」

「いいよ、そんなに僕の事を気遣ってくれなくて」

「どうして?ショート前は『観光に連れてって~』って言ってたじゃないか」

「そ、それは」

「どうせ勇利の事だから、俺との最後の思い出にって事だったんだろうけど」

「うっ…」

 ヴィクトルは右手で僕の指輪に触れてくる。冷えきってしまっている僕の指で輝く、おまじないの指輪。

「勇利の事を気遣ってるつもりはないよ。むしろ勇利はもっと俺の事を気遣ってくれるべきなんじゃないかなぁ~」

 イタズラっ子みたいな表情で、優しげに僕を睨む。指輪にキスをするヴィクトルの右手にも、同じ指輪がまだ光っている。すぐに外されて構わなかった、ただの自己満足が形になっただけのものだから、試合が終わればすぐ外してくれて構わなかったんだけど…。

「指輪だけじゃ足りないよ、勇利」

「…解ってるよ。忘れてないよ。コーチ料はちゃんと」

 必ず支払うから。そう言葉を続けようとした途端、僕を包んでいたヴィクトルが思いきり覆い被さって来る。僕の目の前にはヴィクトルの胸があって、彼の両腕がしっかりと僕の頭と背中を固定した。

 いつものハグでもスキンシップでもない。力強いそれが何を意味しているのか全く解らず僕は一瞬呼吸を忘れた。

「勇利には沢山の『L』を貰ったけど、まだまだそれじゃ足りないんだ」

「え、エル?」

「勇利が望む事を全て叶える。俺が持ってる物は全てあげよう。勇利が求めてくれるなら俺はいつまででも氷の上に存在し続ける。でもね」

 少しも緩まないヴィクトルの両腕が、少しだけ震えているように感じた。またヴィクトルが涙を流しているのかと心配になったけれど、言葉尻に涙は含まれていなかった。それどころか、いつになく真剣な声で、少しゆっくりな口調で、確かに僕の耳に届いてくる。

 彼の、まるでプロポーズのような言葉が…。

「それは、勇利が離れずにそばにいてくれる事が条件だからね」

 そんなのヴィクトルが望むような事じゃない。僕が必死で訴える事だ。離れる事を決断するのにどれだけの勇気を振り絞ったかヴィクトルは知らない。

「…ヴィクトル」

「ん?」

「僕は考え事をしながらジャンプをすると失敗するって言ったの覚えてる?」

「勿論覚えているよ。勇利に言った事、教えた事、約束、全部覚えてる」

「そっか。僕さ、フリーの間ずっと考えていた事があったんだ」

「うん」

 これが答えなんだって気がついた。ゴールは決めたって自分に言い聞かせていただけで、本当は、単純で、率直で、隠しきれない感情がそこにあったんだ。

「知ってるよ。勇利がフリーの間ずっと『終わりたくない』って思いを抱いてYURI ON ICEを表現していた事を」

 えっ?

 僕は思わず顔をあげた。途端にヴィクトルも少しだけ腕を緩めてくれるが、一向に離そうとはしてくれないし、僕もそのまま彼の腕の中に収まっていた。マッカチンがヴィクトルに甘えるように、僕は背伸びをしてヴィクトルの顔を覗き混む。

「気付いてたの?」

「俺は勇利のコーチなんだから当たり前だろ?」

「そ、そういうもんなんだ」

「ごめん。っていうのは嘘でね」

「えー!?どっちなんだよ!」

 人が感動してればすぐ誤魔化す。僕が口を尖らせて怒ろうとすると、ヴィクトルが困った様な表情で言葉を続けた。

「俺の方がね『終わりにしてほしくない、ずっと一緒にスケートを続けて欲しい』って、そう思っていたんだ。だから、勇利にも同じ気持ちで居て欲しいって強く願っていたんだ」

 恥ずかしそうに、プレゼントを欲しがる子供の様な目でヴィクトルがそういうものだから、僕は思わず涙が溢れた。

 堪えきれない感情が頬を伝うけれど、それを彼の暖かい手のひらがそっと拭ってくれる。

「この願いを、勇利は叶えてくれる?」

 僕の神様はどうしてこんなにも僕の事を必要としてくれるんだろう。何故僕のわがままを聞いてくれるんだろう。

 溢れる涙でもう何も見えないよ。だけど、僕は今確かにヴィクトルと共にいる。

 ずっと、ずっと…

「ヴィクトルのそばにいたい」

 彼の背中に手を伸ばした。僕は不器用にしがみついた。愛や気持ちを表現するのがとても苦手な僕だけど、みっともないって思われても良い。欲張りだって言われても良い。誰にも認められなくたって良い。笑われたって構わない。

「やっと言ってくれた」

 ヴィクトルの求めた答えであっているのかどうか解らないけれど、それが今の僕の精一杯の告白だ。僕の額に唇を近づけたヴィクトルは、触れるか触れないかのキスをする。僕の拙い告白に合わせてくれている様で、少しだけ恥ずかしさが込み上げた。

 12月のバルセロナで幕を閉じる筈だった想いは、光を見つけてまた輝きだす…。




 おまけ


「わお、君の親友は本当に自撮りスキルがパーフェクトだね」

 朝、目を覚ましたらヴィクトルがスマホの画面を見ながらにやにやと笑っている。まだ頭が寝癖だらけの上、覚醒していない僕は面倒臭そうに自分のスマホに手を伸ばした。

 君の親友、自撮り、その二つのワードで出てくるのはピチット君のInstagramしかなかった。僕もヴィクトルも昨日は結局バンケットに戻らなかったから、きっとその写真だろうなぁと思っていた。

 が…

「えぇっ!!」

 一気に目が覚めた。

「ん~でもこの角度だと勇利の顔が半分隠れちゃってるね」

「いやいやいやいや、そういう問題じゃないでしょう!」

「クリスの方が良い感じに撮ってくれているね、流石だ」

 ピチット君、クリス、二人のInstagramに挙げられているのはどちらも僕とヴィクトルの写真だ。しかも、昨日のバンケットを抜け出して二人でバルコニーで話をしていた時の写真。僕とヴィクトルが、えっと、その…

「素敵な写真じゃないか。どうみても恋び…」

「すとーっぷ!」

 慌ててヴィクトルの口を左手で塞ぐ。右手でInstagramのログを辿るが、一体何枚写真撮られていたの僕たち!!

「ちょっとピチット君の所に行ってくる!」

「無駄だよ勇利、このハートの数をみてよ」

 凄まじいコメント数…きっと世界中のフィギュアスケートファンが見ただろう。ただでさえヴィクトルを独り占めした日本の選手って事で反響が大きいのにこれじゃぁ…

「『金メダル取れなかったから結婚はお預けだね』だってさ。面白い子だね。祝福しているのか邪魔したいのか、どっちだと思う?勇利」

「…うんとね、面白がってるだけだとオモウ」

 ピチット君を怒る気力も消え失せて、僕はボフッとベッドに体を沈めた。またこれで変な噂や報道をされるんだと思うと、日本に帰るのが一気に億劫になってしまった。

「勇利、どうする?今日。観光?それとも…」

「うーん、そうだなぁ」

 昨日の疲れがどっと押し寄せて来た。起き上がるのも正直面倒だ。隣のベッドでInstagramを眺めているヴィクトルはどうしたいんだろう。そんな事を考えていたら自然と手が延びていた。


「ヴィクトルの、そばにいる」


fin
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